上海
読めない文字は快楽である。それゆえ私は作品に、画数の多い
JIS第二水準の漢字や、外国語であるハングル、あるいは見た
こともない元素記号等を使う。ただしこれは今だから言えること
で、「方法主義」を標榜していた2004年末までのあいだ、ド
グマ違反である「快楽」の語を、私は一度も口にしたことがなか
った。
2005年2月の上海滞在は、私にとって初めての中国滞在で、
すなわち初めての簡体字体験だった。読めそうで読めない簡体字
の体系は、それだけで巨大な快楽の塊で、テレビにしろ新聞にし
ろ街の広告や標識にしろ、目が釘付けになる興奮を私は禁じ得な
かった。
しかし当地に10日間もいると、簡体字における文字簡略化の
ルールも次第に体得され、逆に久々に目にする日本語の漢字が異
様にさえ見えてきた。上海空港に降り立った当初の、読めない文
字に囲まれ世界を揺さぶられたようなあの感覚は、もはや過去の
ものとなってしまった。
方法主義で快楽を禁じた理由は、こういう事態を見越してのこ
とだったのだろうか。とまれ、方法主義の軛から離れ、突然のク
ーデターで電話も通じなくなったネパールから脱出し、ここ上海
で旧暦の春節を楽しむことと相成った。噂通り街中が夜通し戦争
みたいに花火だらけで、立ちこめる硝煙はホテル7階の窓からも
侵入し、鼻孔をくすぐった。
中ザワヒデキ「上海」
2005年2月 4分33秒 縦横比9:16
編集助手=以倉寿哉 撮影地=中華人民共和国、上海
*今週末と来週末、上記作品が渋谷・イメージフォーラムで
上映されます。
詳細: http://www.imageforum.co.jp/cinematheque/936/
同報にて失礼しました。
中ザワヒデキ
http://aloalo.co.jp/nakazawa/
2010-01-22b 「ボダナート」「上海」の二通を同報配信(日本語のみ)。ウェブサイト更新。
書籍「Pahenlo ネパールでアート」美術出版社刊、2007 も参照ください。
- このサイトは本人が作成しています。雑記帳もご覧ください。
- 作品のお問い合わせ、原稿や講演等の依頼はギャラリーセラー宛にメールでお願いいたします。宛先を info@gallerycellar.jp とし、 CCに nakazawa@aloalo.co.jp を含めてください。
2010-01-27a 情報追加。
- おかげさまで先週末の上映は好評でした。今週末も上映されますのでよかったらお越しください。
- 上記同報文面は2007年に書いたもので、上記参照書籍「Pahenlo ネパールでアート」に所収されたものです。同書では、「パヘンロと7人の作家達」の一人として私の「ボダナート」「上海」が紹介されているほか、座談会「パヘンロ、アジア、映像」では大木裕之さん、加藤到さんと私が長篇トークを展開しています。さらに、「画廊との仕事」という私の文章も所収されています。
- 上記イメージフォーラムのリンクから一部コピペしたものをここに置いておきます。
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