方法 第12号 2001年12月31日発行 ゲスト=刀根康尚 ほぼ隔月刊・配信誌「方法」は、方法絵画、方法詩、方法音楽などの方法芸術の 探求と誌上発表を目的として、電子メールで無料配信する転送自由の機関誌です。 不要な方、重複受信された方はご一報くだされば対処いたします。 * 方法主義宣言、同第二宣言 http://www.aloalo.co.jp/nakazawa/houhou/ * 方法 同人=中ザワヒデキ(美術家)、松井 茂(詩人)、足立智美(音楽家) 巻頭言 足立智美 ゲスト原稿 非方法としてのサウンド・アート 刀根康尚 ゲスト作品 A Seminar on the Purloined Letter 刀根康尚 同人原稿 単数性の屹立(作品が作品であること) 中ザワヒデキ 詩のリアライゼーション 松井 茂 外部へ 足立智美 同人作品 511個の自然数から成る集合(集合第一番) 中ザワヒデキ 1231 松井 茂 顔の主題による変奏曲 足立智美 お知らせ・編集後記 ↓ 以下、スクロールしてご覧ください ↓ ■■方法 第12号 ゲスト=刀根康尚 巻頭言 足立智美 今号のゲストは強靱なコンセプトを武器にフルクサスの黎明期からほぼ40年の 長きに渡って、先鋭的な活動を展開する音楽家の刀根康尚氏の登場です。映像や テキストをマルチメディアとはまったく異なる方法で音楽と組み合わせた氏の作 品はコンセプチュアル・アートの現代における極点であると同時に、芸術の新し い可能性も指し示します。 YASUNAO TONE http://www.aloalo.co.jp/nakazawa/houhou/g012tonef/tone.html ■ゲスト原稿と作品 非方法としてのサウンド・アート 刀根康尚 ヴァレリーが陸軍省の入試試験で書いた論文はモルトケ将軍などを引用して、 当時勃興しつつあったプロシャや日本の将来を予告したものであったが、試験官 には悪評さくさくで、かれは見事に落第した。 これは、試験官のほうが受験生よりも、はるかに劣っていた好適例であるが、 この論文はその後、かの良く知られた名論文"方法的制覇"として結実した。ヴァ レリーによれば、完璧な方法とは必ず同じ結果をもたらす。それは、平均的な知 性の持ち主ならば、誰にも遂行可能な形式の創出であり、そのために、偶然や誤 りの徹底的な排除が必須とされる。産業においてはモルトケ将軍にはじまったプ ロシャの戦争機械のモデルは、ドイツ商品にヨーロッパの市場の圧倒的な優位を もたらすが、これは、アメリカに受け継がれることになる。 我々にとっては、それは誤りや、偶然や、即興的なものを通じての、更なる飛 躍の不在であって、その結果は凡庸至上主義である。凡庸至上主義が一つの強度 を持ち得た時期は、ポップアートに始まると同時に終わった。その残照としての ポストモダンは問題にならない。ところで、方法に一見似て非なるものに実験の 概念がある。未知の領域の探求である実験は論理的還元とトートロジーを排除す る。従って芸術作品の制作は—トートロジーの排除:芸術は非‐芸術であり、論 理的還元の排除:制作は計画に還元され得ない—でなければならない。ここで、 付け加えれば、非芸術は全て芸術であるわけではなく、その条件に過ぎないこと である。 音楽にかんしては、音楽が芸術から分離することによってしか音楽でなく、芸 術としての音楽は、芸術であるという負債を負うことによってのみ芸術たりうる が、音楽はその負債を放棄することで音楽である、という現状認識が必要なのだ。 この負債は音楽を放棄することを要求するが、芸術家である限りかれが芸術家で あるというまさにその理由によって、社会にたいしてこの負債を維持することに よって、芸術と音楽の分離を拒絶することが要求されているのだ。私がサウンド ・アートと呼ぶものはそのようなものを指す。したがって、デヴィッド・トゥー プやダクラス・カーンなどが指すサウンド・アートとは全く無縁のものである。 A Seminar on the Purloined Letter 刀根康尚 http://www.aloalo.co.jp/nakazawa/houhou/g012tone.html 本作は1998年、Earl Brown の生誕70年を記念するコンサートのために DownTown Ensemble によって委嘱された作品である。アンサンブルの編成はテキ ストの朗読、クラリネット、ギター、トロンボーンにエレクトロニック・サウン ドである。電子音は長すぎてトランスファー不可能のため割愛した。 ■同人原稿と作品 単数性の屹立(作品が作品であること) 中ザワヒデキ リンゴが3個あるとしよう。「リンゴが3個ある」という文章においては、リ ンゴは3個ある。だが「3個のリンゴがある」という文章においては、「3個の リンゴ」が1個ある。これは、たとえばリンゴが3個描かれた絵において、絵の 内容としてはリンゴは3個だが、リンゴの絵としては絵は1枚であるということ と同様だ。あるいは「3」は数(シニフィエ)としては3だが、数字(シニフィ アン)としては1文字であるということと同等だ。何が言いたいか。芸術作品は、 内容(シニフィエ)がいかであれ、題名(シニフィアン)が1個あるというまさ にそのことによって1個の作品として成立しているのだということが言いたい。 作品が作品として成立する瞬間に自動的に派生する権威を嫌い、作家が作品を 作品と宣する行為それ自体を批判する考え方がある。その考え方をさらに批判し ている私は、注意深く権威を肯定し、自覚的に作品を作品と宣しようとしている。 ならば自覚は、作品における題名の単数性に対してなされるべきだ。内容がそ れに沿えれば、なおよいかもしれない。私にとっては題名が先、内容が後である。 「a個の分銅から成るbグラム」という作品(a、bは具体的数値)では、a 個の分銅を載せた台秤の目盛りはbグラムという1個の質量だ。「a枚の硬貨か ら成るb円」では、a枚の硬貨を入れた1枚のビニル袋の中身はb円という1個 の金額だ。ともに題名においては個数aを数値bに変換することで自覚を顕わに し、内容においては台秤の目盛りとビニル袋の単数性が作品成立の要件となる。 新作「a個の自然数から成る集合」では、a個の自然数を1個の集合に囲うこ とで、数値bも不要とした。題名では個数aの宣言が直に自覚を顕わにし、内容 では集合を表す記号{ }が単数性を主張する(本誌9、10、今号の作品参照)。 「質量」「金額」「集合」ともに、題名自体が屹立できれば台秤もビニル袋も { }もいらない。実際、「質量」は台秤無しでも発表している。だが現実には額 装等の状況が題名の屹立を左右するため、内容における「台秤、ビニル袋、{ }」 が自覚の拠り所となる。単数化を担うこれらが、非作品から作品を分けている。 詩のリアライゼーション 松井 茂 2001年は、「私情と没入を禁じて方法自体と化した文字列」(=方法詩)のリ アライゼーションの機会が何度かあった。詩のリアライゼーションは、通常朗読 とされている。しかし、これまでにも「方法」誌上で何度か触れたように、朗読 は、複行詩のリアライゼーションとして、甚だ不完全なものだと言わざるをえな い。詩は〈うた〉から派生しているのかもしれないが、それはつきつめても、証 明のできないことだ。確実なのは、線状性のある文字列として詩が確立されたと いうことだけだ。ゆえに、声と分離して書かれる現代の多くの詩が朗読という形 でリアライゼーションされることは、それぞれの作品にとって相応しいことだと は思えない。作品の形態とかけ離れたリアライズは、誤っている。無論、朗読を 目的として制作された単行詩はありえるだろう。それを音響化する朗読には意味 がある。しかし、現在制作されている詩の多くは、朗読のために、制作されてい るとは思えない。つまり、詩は、いつだって文字優先で書かれている。ゆえに、 詩のリアライゼーションは、〈見せる〉あるいは、〈書く〉行為としてなされる べきだ。「第一回方法芸術祭 美術館編」(2001年3月11日)で、私は「表示詩」 と、「n個の『文字霊』の手書き生成」を行った。「表示詩」は、〈見せる〉とい う行為。このときは、「純粋詩」を使用。また、4月28日に行った再演では「乙類 短歌」を使用。いずれも単に発音することによっては、作品の意図を伝達できな い作品であったため、〈見せる〉という方法をとった。「文字霊」は、漢和辞典 をその場で開き、象形の文字を探し、「総画数マイナス1」の文字を原稿用紙に 〈書く〉という行為だ。またその発展として、8月19日に行われた「BG(M or P) ?」では、詩に音と舞踊を伴った編成で、「純粋詩」をもとに、「一」「二」「 三」の文字を書く行為、画数を、それぞれの動きの単位の数に置換した。 詩のリアライゼーションの方法は、「朗読ありき」ではなく、「テキストあり き」で計画されなければならない。その計画は、テキストに応じて、反社会的な 行動に置換されることさえ辞してはいけない。文字列の置換こそが方法詩である。 外部へ 足立智美 非方法芸術のほとんどが見るに、読むに、聴くに値しない代物であるのと同じ ように方法芸術のほとんどが見るに、読むに、聴くに値しない代物である。とい うことは方法的かそうでないかは、芸術の価値には何の関係もない。芸術の価値 とは何か。それを問わないために方法主義はあった。方法主義は芸術の完成に向 かうべきでなく方法の完成にこそ向かうべきである。方法主義は政治だ。力を持 たねば意味がない。市場主義に対抗するのに原理主義になる?テロリズムと手を 結ぶのも悪くない。それでこそ芸術はジャンルを越え、力を手にすることができ よう。しかしわれわれは市場主義か原理主義かの選択を迫られているわけではな い。それはどちらかに自らの存立を委ねてしまった者の勝手な言いぐさに過ぎな い。歴史を終焉したものと扱ってはいけない。 ポストモダンとは歴史の線的進歩という意識を捨て、歴史を自由に引用可能な 平面として扱うことだった。だからどれをどのように並べても良かった。歴史の どの立場を踏襲するにせよ、選択するということはそれが既に終わったものだと いう認識がなくてはならない。モダニズムという立場が選択可能なのは彼がポス トモダンにいるからだ。だが終わったものを選ぶというのはそれ自体、反歴史的 なアイロニーに過ぎない。そこには転回が欠けている。ニーチェは神なき時代に 再び原理を回復しようとすることを、不完全なニヒリズムとして相対的なニヒリ ズムと同様に退けた。絶対主義も相対主義も同時に思考しうるような存在をニー チェは超人というたどたどしい言葉で語ることしかなかったが、われわれに必要 なのはモダニズムへの固執とその廃絶を同時に思考する知性なのだ。それは超モ ダニズムでもポストモダニズムでもなくモダニズムの外部である。 何かを創造するためには倫理が必要だ。そのある局面を方法といってもよい。 しかし方法主義とは違う。方法芸術といってもよい。しかし方法主義とは違う。 私は方法主義者であることをやめても方法芸術を作り続けるだろう。芸術の外部 を垣間見るために方法は一助になるはずだ。 511個の自然数から成る集合(集合第一番) 中ザワヒデキ http://www.aloalo.co.jp/nakazawa/houhou/houhou012.html 15も、248も、357も、1278も、46789も、12456789も、 各桁の数字に着目すると左より右が常に大きい。そういう自然数は全部で511 個あり、『集合第一番』の全要素とした。『集合第二番』(左より右が常に小さ い)とともに、バンクーバーのヘレンピットギャラリーでの個展で十一月に発表。 1231 松井 茂 http://www11.u-page.so-net.ne.jp/td5/shigeru/no15.html 「純粋詩」シリーズ第15作。 顔の主題による変奏曲 足立智美 http://www5.ocn.ne.jp/‾atomo/houhou/work12.html デジタル画像と壊れたデジタル画像と文字列。主題となるデジタル画像を文字列 に変換。文字列をアルファベット列をもとに置換。もう一度デジタル画像に復元 する。主題に対する操作手順と画像及び文字列を並べたもの。最終的に画像がま ったく得られなかったものに関しては文字列のみを展示。 ■お知らせ (刀根康尚) グループ展: Mutations, TN Probe, 青山表参道、1月26日まで。 Do It, Museo de Arte Carrillo Gil, Mexico City. 2月10日まで。 予定: Performance with Elliot Sharp, Zbigniev Karkowsky et al, Tonic New York 1月23日 8pm-11pm。 (中ザワヒデキ) ・執筆…「最終芸術の虚偽と真実 −松澤宥の甘えと寛容−」(美術手帖2月号) 本誌8号ゲストの氏を観念芸術成立の力学と芸術至上主義の逡巡から論じました。 ・講座…美學校で5月より「方法主義宣言」開講予定。 ・展示中…病院ギャラリー(伊予三島):日曜のみ/500円/要予約090-1006-2628 ・発売中…西洋画人列伝(NTT出版)、近代美術史テキスト、作品パンフ(通販可) (松井 茂) ・1.5 朝日新聞夕刊に作品掲載 ・1.26 「ポエトリー・リーディング 現代詩に声を取り戻そう」に出演 お問い合わせ:明治学院大学言語文化研究室 TEL:5421-5213 ・2.1 水牛HPにエッセー掲載 (方法) ・本誌既刊号は右にもあります。www.aloalo.co.jp/nakazawa/houhou/haisinsi/ 第11号までのゲスト……篠原資明、古屋俊彦、三輪眞弘、建畠晢、岡崎乾二郎、 鈴木治行、石井辰彦、松澤宥、高橋悠治、田名部信、豊島重之。新規に配信を希 望される方は、既刊号の要・不要を添えて中ザワか松井まで連絡ください。 ■編集後記 今号をもって足立智美は「方法」の同人を抜けます。理由は今号及び最近の本誌 を参照して下さい。ご静聴に感謝いたします。「方法」は新同人を迎えて活動を 継続します。(足立) ■奥付・注意 機関配信誌『方法』 第12号 2001年12月31日発行(ほぼ隔月刊) 中ザワヒデキ nakazawa@aloalo.co.jp http://www.aloalo.co.jp/nakazawa/ 松井茂 shigeru@td5.so-net.ne.jp www11.u-page.so-net.ne.jp/td5/shigeru/ 足立智美 atomo@theia.ocn.ne.jp http://adachi_tomomi.tripod.co.jp/ 本誌は転送自由ですが、執筆者の著作権は放棄されていません。改ざんや盗用は 禁止します。転送は転送者名を明記の上、各自の良識のもとに行ってください。