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思考停止のタニシ・マーキング
中原浩大"Oide!! Moukizur" 
              中ザワヒデキ  マルチメディア・アーティスト

 水槽にタニシがいて、タニシと目が合ったらタニシのいるところを白マジックでマーキングするのだそうです。ランダムに外側からマーキングがいっぱい施された水槽が、作品というわけ。いや、ランダムでもないか、タニシ様とアーティスト様の「目が合った」(笑)時に正しく印がつけられるというキマリなのだから。
 あるいはパラパラグラフィック(PPG)と銘打たれたビデオ作品。つい最近マックを買って、アソんでますと作者の弁。ほんとにそんなかんじで、かっこよく言えばオートマティズムの手法で制作されたようなイメージ群、普通に言えば何も考えずに描いたような絵が、かなり沢山、ランダムにパラパラ出てきます。……ってのはB-movieと題された方。A-movieは単にいろんな色面がランダムに出てきてチカチカしてるだけ。こちらは各ページに色面(折り紙?)がペタペタ貼ってある大学ノートが参考作品となっていて、作者本人が言うには、「これを見てると、落ちつく」との事。
 他に出品されてるのは、ここ何年かのワークショップなどの折りに、作家が発表してきた作品群。ロールシャッハテストみたいな半分だけの絵は、ある学校で子供達に続きを仕上げるようにと出した宿題。「イヤナヤツラダ キヲツケロ」「クマ」「それでは みなさん 月まで行ってきます」などと書かれたビラは、静岡県島田市のワークショップで、空から撒かれたもの。あるいはパジャマ姿で自宅にいる自身の写真2点と、風変わりなサイコ的絵画2点が組み合わされた作品は、「いいボクわるいボク」とタイトルがつけられてたりします。全体的に邪気のない(邪気だらけ?)、むき出しのマインド(知能?)をさらけ出してるかのような展覧は、一見楽しくもあり、もしかしたらとても悲しいかもしれない。そうそう、展覧会タイトルはある単語のアナグラムだとの事。
 ところで困った事に、何を見てもすぐ美術史を思い出してしまう悲しい性の私にとっては、今回の展示はまさしくシュールレアリスムに思えました。タニシを使ったランダム性の導入や、瞬時にパラパラ切り替わるイメージは、偶然性重視のオートマティズム。単に画面がチカチカするってオプ・アート的かもしれないし、ロールシャッハテストだって深層心理との関連です。子供や精神障碍者の絵に着目するってのは「生の芸術」を主張したデュビュッフェだっけ? アナグラムだってシュールの手法だし。
 シュールレアリスムとの関連を直接作者に尋ねたところ、時代が違うし、特に考えてないとの事。確かに1920年代のシュールレアリスムそのままじゃ無いですね。でも私はオプ・アートが出てきた60年代だってシュールレアリスムの再来だったととらえているし、90年代の今現在だって、まさにシュール再々来の季節だと思ってるわけなのです。
 しかし、本当は精神障碍者のアートにかなり関心を持っていたり、実は大変な美術的知識の持ち主だったりするらしい中原氏の、「美術史上でどう解釈されるかということにはもはや責任を持ちたくない」「特に何も考えずに、たんに気分的にイイ事をしてるだけです」という言葉は、作品を見ている限り、信じられると思います。ほんとはそういう「思考停止」チックな言い方自体、シュールレアリスムが行き着いた先かもしれないのですが。そしてここから先、その暴力的までに児戯的でむきだしの「コーダイ」を、「YES」と受け容れて愛をかんじるか、あるいは、ちょっとそういう「大きな子供」は、やはり大きな子供でしかないと思うかは、まったく鑑賞者次第というわけなのでしょう。